今では、「鬼滅の刃」「ONE PICE」などと多くのアニメが100億円台を突破する時代となりましたが、まさに新海誠の「君の名は。」が生まれるまで日本の映画アニメで興行収入100億円を超える作品を生み出してきた監督は宮崎駿のみでした。そんな中、名を轟かしてきた新海誠。その圧倒的な「映像美」は、日本のアニメ界の中でも随一と言われており、少年少女達の物語を美しい色彩と音楽で多くの国や世代を魅了させてきた。
「君の名は。」(2016)、「天気の子」(2019)に続き、新海誠の3年ぶりとなる最新作「すずめの戸締まり」が11月11日に公開され、31日間で興行収入が85億9000万円を突破、636万人と観客動員数を伸ばし大ヒットしている。
映画公開3日間では、「君の名は。」は11億円1800万。「天気の子」は16億円4000万。前作2作品を超え18億8421万の興行収入を博し、また「君の名は。」の最終的な興行収入は250億3000万円。日本の映画の興行収入ランキングでは4位。5位の「ハリー・ポッターと賢者の石」(203億円)を大きく抜かし、3位の「アナと雪の女王」(254億円)と並び、海外での日本映画の興行収入としては断トツの成績を残しています。
今回、初日に映画館の方に足を運んでみたが席は満席、幅広い年齢層からの支持も得ていることが伺えます。
では新海誠作品は年齢の広い世代に刺さるのか?
私は、「君の名は」以降から新海誠は広い世代に認知され始めたと思います。
映画3作品に類似する点とは、震災や災害、天災の犠牲者への追悼的な部分が特徴的で、「君の名は。」はかつて隕石が落ちた場所に、再度、隕石が落ちてくるという内容でした。実際に映画を観た人は気付くと思いますが、かつて津波が襲った東北沿岸を再度、津波が襲うという東日本大震災を強く意識され、そして、その犠牲者への追悼の気持ちがこもった作品だと感じます。
「天気の子」は、設定での架空の話ですが、雨が降り続けている世界を描き、そのために人々も苦しみ、この災害を阻止するために、女の子が巫女とし自らを犠牲にしようとしている。というストーリーでどちらも天災や災害。そして、それに絡んで生まれる犠牲者への追悼がテーマであり、同時にその犠牲者たちの死は、単なる無駄死にではなく、何らかの必要な意義ある死であるというメッセージも込められていると思えます。
また、「地域・地方」に重点を置いているところも一つ人気の理由かと思えます。
3作品では、どれも地方または地域がよく描かれており、『君の名は。』では飛騨高山あたりが舞台の一つで、『天気の子』では少年が島から東京といったいずれも「地域」または「地方」が意識されている。そして『すずめの戸締り』では、他2作品を上回る形で主人公の女の子は、宮崎から始まり、その後、愛媛、神戸、東京と旅をし、最後は東北に行きます。船旅やヒッチハイクをしたり、その土地土地でいろいろな出会いを経験し、人情に触れ、名産品や料理を味わいつつ「地域・地方」の日本各地の良さを実感していく。といったロードムービーと、実際に見ている人は映画にハマり込み、実体験しているような形になっているために人気を出しているのかと感じられます。
もうひとつ新海誠作品といえば、「見たことのある景色、雰囲気」である。そこには異常にリアルな世界が広がっており、普段感じている日常風景を含めて、全て、「あ、これどこかで見たことあるな」ということになる。きっと誰しもが一度は見たことのあるような気がすることこそが、他にはない新海誠の魅力であり、力なのだ。
それに加え、実在する風景の美しい描写も醍醐味であることから、新作が公開されるたびに「聖地巡礼」をするファンが多いことでも知られている。
もちろんファンの中にも足を運ぶ人も多いではなかろうか。しかし、騒音や早朝深夜などで苦情が多く殺到しているため、上映終わりでは本編中に登場する、または関連のある場所への訪問をされる 皆様におかれましては、近隣住人の方々へのご配慮、及び節度のある行動、マナーに十分心掛けながら お過ごし頂きます様、お願い申し上げます。との注意喚起も促しており配慮もしっかりとされていた。
また、海外でも人気を博しているのはなぜか。
前文でも述べたように日本人から見た場合、どこかで見たことのある風景の中での物語に共感することが多いと思います。では海外の方はどうだろう。ライフスタイルや文化圏、さらにはインテリアなどそもそもの世界観が違うために共感という観点はないだろう。しかし日本的なものを擬似体験することでフィクションとして楽しむことはできるのではないだろうか。すなわち、こここそ海外での人気の理由だと感じた。
このように、観客を観客だけで済ませるわけではなく、共感や意識を没頭させる力こそ新海誠ならではの魅力で、人気を出しているのだと思う。