Xで突如流れてきた一枚の画像。赤茶や灰色がまだらに混ざる退廃的な背景。真ん中には椅子に座る人。その人の顔は黒い丸で塗りつぶされている。ほんの一瞬で、その不気味さに妙に惹かれてしまった私は、友人を誘って「恐怖心展」へ行くことにした。
先端や閉所、視線など、様々なものに対して抱く恐怖心が本展示のテーマである。怪談作家の梨や株式会社闇代表の頓花聖太郎、テレビプロデューサーの大森時生といったクリエイターが携わっており、主催は株式会社闇、株式会社テレビ東京、株式会社ローソンエンタテインメントで、東急不動産株式会社が会場協力を行っている。展示期間は7月18日から8月31日までの予定だったが、好評につき9月15日まで延長。会場は渋谷のBEAMギャラリー。チケットは当日窓口での販売がなく、事前にローソンチケットか、チケットぴあにて購入する必要あり。また、日にちによっては日時指定制になるため、チケット購入の際には注意が必要。会場内は写真、動画撮影が可能で、一部を除いてSNSにアップも可。
渋谷BEAM1階のエレベーター前から整列して入場。BEAMギャラリー全体が会場になっており、通路もそこそこの広さがあった。夏休み前の平日昼間に訪れたがかなりの人がおり、90分制のため全て見られるか不安だったが、ゆっくり見てちょうど良い展示数だった。展示物によっては並ぶ必要があるが、順路はなく、後で見ることも可能。顔を黒い丸で塗りつぶされているような写真が撮れる場所もあった。
存在に対する恐怖心・社会に対する恐怖心・空間に対する恐怖心・概念に対する恐怖心 という4つのエリアに分かれており、それぞれ異なる恐怖心を写真や映像、オブジェからだけでなく、音や匂いなど、五感を通して体験することができる。ぱっと見は展示物とは気づかないような隠された展示も会場のあちこちにあり、これらには他展示物のような説明がないため、見た人によって感じ方や捉え方が違うのが面白い。また、これらの展示物にはジャンプスケアを用いた表現は存在せず、ホラー耐性皆無の私でも安心して観覧することができた。
私が特に恐怖を感じたのは、存在に対する恐怖心をテーマにした「注射に対する恐怖心」の展示だった。映像で採血のシーンが流れていたのだが、それを見ただけで血の気が引いてしまい、終始まともに直視できなかった(写真すら撮れなかった)。しかし、平気そうにその展示を見ていた人もおり、一緒に行った友人が「採血って面白くない?なんか笑っちゃうんだよね」と言っていたのが印象に残っている。逆に、私が平気で友人が苦手なものもあり、恐怖心は人それぞれ違い、何を怖いと思うかには大きな個人差があるのだと改めて感じた。
この展示会の面白さは、単に「怖いものを見せる」ことではなく、来場者一人ひとりの心の奥にある恐怖心を炙り出すところにあるのだと思う。存在・社会・空間・概念といったテーマごとに、自分の恐怖のツボが露わになるのは不思議であり、同時に興味深い体験だった。不気味なポスターに惹かれて訪れた展示だったが、思っていた以上に多様な恐怖に向き合い、友人と感想を語り合うことでさらに楽しむことができた。
恐怖はただ嫌なものだと思っていたが、自分を知る手がかりの一つであることを知った。実際に体験しながら普段向き合うことのない感情に触れたことで、自分の傾向や新たな一面を発見するきっかけとなった。
↑もう少し近くで撮ればよかったかも
↑手:友人 先端恐怖症の人ゴメン
↑左下に写っているのは私の指です
↑こんな感じの隠れ展示も